土地を見てイメージする

 土地を見て、いろいろなことをイメージする。
 そんな仕事をしている。
 もちろん、その地域の社会、経済、産業、歴史、文化、自然、土地利用の規制などを調べた上で想像する。
 いろいろな用途に利用されているイメージ、いろいろな建物が建っているイメージ、大規模に開発されたイメージ、新しい道路が開通したイメージ、まちが賑わっているイメージ… 想像に限りはない。
 しかし、良い想像ばかりではない。
 空き家が建ち並んでいるイメージ、耕作されず荒地になったイメージ、災害で崩れたイメージ… など悪い想像をすることもある。

 かつて「土地神話」というのがあった。「土地の価格は必ず値上がりする。」「土地には絶対の価値がある。」というもの。
 ところが、今では多くのまちで地価が下落し、利用価値や資産価値の乏しい土地が捨てられ始めている。
 相続未登記や相続放棄などで所有者が不明となり、身寄りのない土地が増えている。
 土地の終活をしている人もいる。
 これまで想像できなかったことだ。

 あまり知られていないようであるが、国は毎年10月を「土地月間」、10月1日を「土地の日」と定めている。
 この時期には、国、地方公共団体、土地関係団体が協力して各地で講演会等を開催して、土地に関する基本理念の普及・啓発活動を展開している。
 また、全国の地価調査が行われ、各地の地価やその動向が発表される。
 ちなみに、土地についての基本理念については「土地基本法」という法律で定めている。興味のある人はインターネットで条文を検索すれば簡単に見ることができるが、その一つに「土地は、その所在する地域の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に応じて適正に利用されるものとする。」という規定がある。
 土地を見てイメージするときに気を付けているのがこの規定で、その中でも「文化的(・・・)諸条件に応じて…」に考えさせられる。
 法律の解説では「土地は、その所在する地域の諸条件、すなわち…(略)…歴史的建造物の立地状況、文化財の埋蔵状況等の文化的条件に応じて、適正に利用される必要がある。…(略)…もちろん、自然環境を保全することも重要であり、この場合、土地利用の転換をせず、保全することも適正な利用にあたることになる。」とある。
 
 「日本の伝統・文化」について、こんな論説を見つけた。
 「衣食住という言葉があり、和装、和食という言葉があるのに“和住”という言葉が見当たらない。」
 日本人の生活習慣の変化が、伝統的な和の住宅に暮らす人を少なくしてしまったということか…
 残念な気持ちでいると、最近、暮らしの中に和の住まいの要素を取り込もうとする動きが出てきた。
 国も文化庁、農林水産省、林野庁、経済産業省、国土交通省、観光庁が集まって「和の住まい推進関係省庁連絡会議」を組織して、和の住まいを推進している。
 いつか和の住文化が見直されて「和住」という言葉が使われるようになるかもしれない。
 9月に空き家再生プロジェクトの先駆的な活動をしている広島県尾道市を訪ねた。
 瀬戸内海に面した「坂のまち」で、映画のロケ地にもなったところであるが、狭い路地を歩くと、あちこちに残された空き家が新しい主人が来るのを待っていた。
 すでにリノベーション(改修)された建物も見られるが、まだ手つかずの古い建物も、専門家の説明を聞くと隠れた価値が見えてきて大切に思える。
 廃屋のような建物も、アーティストが作品のように活用している。
 ここでは空き家がいろいろな可能性を秘めた宝箱のようで、これを活用している人たちのイメージの豊かさに関心した。
 坂を登り、見晴らしの良い高台からまちを眺めると、個人の家もみんなが共有する風景の一部になっていた。
 そうか、ここに移り住んで来た人は、みんなこの風景を見て“尾道らしい”をイメージしているのか…。
 ○○○らしい建物、○○○らしい住まい、○○○らしいまちづくり…。
 “○○○らしい”をイメージすることって大切だ。

 コクド鑑定・調査㈱
 代表取締役社長
 不動産鑑定士
 ヘリテージマネージャー
 鈴木 茂基